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私が中学に上がろうという時期の事、父が仕事で出世したらしい事もあって私達は町に引っ越す事になった。
それはとても遠い――少なくとも子供の私が気軽にこちらまで帰ってこれるような距離ではなかった――場所で、嫌がった覚えがある。
しかしもう決定した事は決定した事で、私はその人に別れを告げなければならなかった。
引っ越す前日、私はようやくその人に事情を話した。引っ越す事、そこは遠い場所である事、また来たいけれどそれがいつになるかは分からない事……
その人は黙って私の話を聞いていた。それが寂しくて、私は少しだけ泣いた覚えがある。その人は私の頭を撫でて言った。
「少し待ってて」
その人はいつもお菓子や料理を出してくれる部屋に私を置いて台所へと向かった。時計がなかったからどのくらい待ったかは分からないけれど、せいぜい十分程度だったと思う。
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