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唇同士が触れ合っていれば当然顔も目の前にあるわけで、私はその時初めてその人の顔を見る事が出来た。
洞窟の中みたいに真っ黒な髪に、花火よりも真っ赤な目。細かい顔立ちは分からなかったけれど、それだけははっきりと分かって。離れていくその人の目を見て私は思った。
ああそっか。この人は人じゃなかったのか。って。
それからお皿の上からオムライスがなくなるまで同じ事を繰り返して、最後にその人は小さな箱をくれた。
「これで君はおれの事を忘れない」
正方形なのに八角形にも見える、不思議な箱だった。触るとほんのり温かいのに、妙に冷たいような感じもする。
「おれに会いたくなったらそれを開けるといい。なくしたら駄目だよ」
そうして私はその人と別れた。
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