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その後、私はオムライスがすっかり食べれなくなった。引っ越してしばらくはショーケースに飾られたオムライスの偽物を見ても吐きそうになったぐらいだ。夢にも出てきた。触感までリアルに再現された夢なんてあれぐらいだろう。
今では大分落ち着いたけれど、オムライスは食べられない。あの時の、あの人が作ってくれたオムライスの味と姿を思い出してしまって、どんなにお腹が空いていても食欲が引っ込んでしまう。あの人の言った通り忘れられない。
もうあの頃の幼い私ではない。あの家で暮らした年数よりも都会で暮らした年数の方が上回った。大学に入ったのを機に一人暮らしを始めた。小ぎれいなマンションの上の方の部屋で、友人達には好評を得ている。
利便性もよければ交通の便もいいし、特に理由がなければずっとここに暮らしてもいいぐらいだ。そうして時間が過ぎて、あと数日もすれば私も「社会人」と呼ばれる部類の人間になる。
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