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「それは…それこそ判断をくもらせる材料になるんじゃないか?」
見えぬツタが膝まで沈んだ身体を絡め取るように、呪縛が強くなる
夏奈子は艶やかなピンク色の唇をわずかに開き、後ろから俺の肩に頭を乗せ、俺の唇に唇を重ねた。
舌が熱を帯びた指輪を押し出し、その後も唇は離れない。
「こんな時に呑気なものね……」
不意に聞こえたその声に、重ねた唇が離れる。
夏奈子は不快な表情をし、後ろを振り返る。
薄くなりはじめた塵の中から樹里が姿を現す。その横には柄の長いハンマーを杖代わりにし、血の滲む腹を押さえている慶岳がいた。
小池と同じ傷。小池は立てなかったが、慶岳は立っている。
バンダナの下から覗く眼はいまだ鋭く、戦意を失っていない。
(化け物だな……)
俺は指輪を手の平に吐き出し、ポケットにしまい込む。
「樹里、慶岳、俺を引き上げてくれ」
樹里が目の端を吊り上げる。
「なに、その頼み方?」
「悪かった。なら……」
俺が丁寧に言い直と、二人は左右に分かれて俺を腐泥門から引き上げた。
俺は息つく間も惜しみ、皆の顔を見回す。
「これから出口へ向かおう。襟引鬼が出口にいない可能性がある」
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