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「本当?でも、それってヤバくない?襟引鬼がどこにいるか分からないわけでしょ?もしかしたら…ここにいるかも」
樹里は不安気に周囲を見回す。
「なら、なおさら急いだ方がいい」
急かす俺に対し、「反対だ」と声が投げられる。
声がした方を向くと、いよいよ塵の薄くなった廊下に男女が立っていた。
男は赤茶けたドテラを身に付けており、女は眼鏡を掛けている。
哲平と珠子だ。
哲平がドテラの裾を引きずり、俺に寄る。
「まだ姫達が取り残されてるんだろ?捨てて逃げる気か」
「逃げはしない。美奈をここから連れ出したら、俺は戻ってくる」
本心だ。施設内には怜が残されている。
「その間に何人の姫が殺されると思う?それに、お前は戻ってきたとしても、樹里や慶岳は戻ってこないだろう。ダメだ、俺が認めねえ」
「まだ鬼は三匹もいる。俺達が全滅する可能性の方が高い。だったら、美奈だけでも逃がしてやりたい」
「どうしても行きたきゃ、俺を除けてゆけ」
哲平が冥府刀を引き抜き、切っ先を俺と慶岳に向ける。
夏奈子は話の流れを掴み、すでに俺の後ろへ回り込んでいる。
樹里も同様に慶岳の後ろだ。
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