15429人が本棚に入れています
本棚に追加
【夏奈子の視点】
哲平は刀を鞘に収め、腐泥門を消す。
足音を消した哲平は、食堂の入口の前を素早く過ぎ、向かいの壁に身を潜める。その哲平を珠子が追い、ドテラの裾の後ろに身を低くして備える。
哲平と珠子がいた場所に望月さんと私が静かに前進し、望月さんは内を覗き込む。そして、指を三本立て、私と位置を入れ替える。
私にも内の状況の把握しろと言っているのだ。
裾を踏む私が望月さんの運命を握っていると言ってよい。その私が状況を把握することは大切なことだ。
内には多数の姫、三本の指は鬼が三匹いることを示している。
巨大な体躯の男、天井から上半身を下げた男、軍服姿の男、あれらが鬼にだろう。
そして、私はカズマと真紀の姿に目を留める。
戦闘経験、技能、姫とのコンビネーション、全てにおいて他の者より抜きん出ているカズマが負傷している。
ならば、鬼は強い。
そして、そうなると、満足に動けるのは哲平だけとなる。その哲平とて他の者に構う余裕はないだろう。
望月さんが当てに出来るのは望月さん自身だけだ。
それは同時に、私にとっても頼るべき相手は満身創痍の望月さんだけということになる。
(……それこそ)
私の望むところだ。
最初のコメントを投稿しよう!