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ただし、そのパワーは活かされることなく、大剣は床に突き立てられる。
足首を薙ぐような攻撃を防いだからだ。
刃を繰り出したのは昏倒寸前の哲平であった。
右足を腐泥門の縁まで滑らせ、その右足を倒れる寸前の体の下へ入れ、膝で胸を支え、その低い体勢から冥府刀を繰り出したのだ。
哲平は折れた奥歯を舌打ちとともに吐き出し、後ろの珠子は眼鏡の奥で夏奈子を睨む。
その視線の中に夏奈子は留まらない。
望月に倒された夏奈子は、うつ伏せのまま両脚を開き、腕のわずかな補助で上体を起こし、開脚した二脚で床に弧を描く。
それが楕円となったのは、左右の脚へ交互に重心を移し、前進したからだ。
爪先が二、三、四と望月の裾を撫で、望月は片腕で空中に銀色の弧を描く。
襟引鬼は後退と上体の反らしで冥府刀をかわす。
その一振り一振りが望月の体力を奪う。
今の望月に体力は残されていない
夏奈子は冷静に望月の状態を見極めながら、床を這うように回転する。望月の背を眺める時以外は、切れ長の目は周囲へ向けられる。
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