三日目

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三日目ともなると、もう二人は何を言わなくとも互いの気持ちをある程度察せられるまでの仲になっていた。アーデレは嫌がるジュシーをときふせ足の様態を聞きだした。幼い頃からどうにも右足が動かず、いざ動かなくてはならないときは右腕に固定する型の杖を用いるか、車椅子でなくてはならないこと、今まではナースコールで手伝いをしてもらっていたこと、一見不便な端のベッドを使っているのは、動かなくてもすぐ外の景色が見えるからだということ…。 アーデレは、これからは私が手伝うわとジュシーに伝えた。ジュシーは喜んだが、やはりどうにも迷惑でないかと気になる様子だ。 また、それゆえの恥ずかしさもあった。   「アーデレ、ごめん…」 二人は女性用トイレに来ていた。ジュシーの足では、廊下に出てすぐそばにあるトイレに行くことさえ困難を極める。 いくら仲良くなったといっても、さすがに会話を止めて尿意があるなどとは口にしにくいものだ。まして女同士ではそれは男の何倍も勇気のいることだろう。 ジュシーが意を決してアーデレに打ち明けたときには、彼女の我慢はもう限界近かった。その結果、何とも伝えづらいことではあるが…アーデレは廊下を少しばかり掃除しなくてはならなくなった。 「平気だってば。それより、こういうことは恥ずかしがらずに言ってくれないと。」 トイレに併設された流しで雑巾を洗いつつアーデレは言った。彼女には、流れる水の音の裏の、ジュシーのすすり泣く声が聞こえていた。 「き、嫌いに…」 「ならない、ならない。」 雑巾をきゅっと絞り水を払うと、アーデレはそれを元あった場所へと戻した。同じくして、トイレに籠もっていたジュシーが赤くはれぼったい目を引っさげて姿を現す。アーデレはすぐに手を洗うと、ジュシーの右手を掴んで支えた。 「平気、そこまでしてもらわなくても…」 「何言ってるの、私がいないと部屋に着くまでに何度転ぶか分かったもんじゃないわ。」 アーデレは笑うと、ジュシーの右手を優しく引いて先導した。ジュシーの歩みは赤子のようによたよたしたもので、普通の人ならば苛立ちを感じるだろうものであったが、アーデレはそんな素振りを見せない。 見せないからこそ、ジュシーにはそれがより不安だった。もしかして、アーデレは無理をしているのではないだろうか。そう思えてしまってマイナス思考に陥る。
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