一日目

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アーデレが入院することになって、心の底から哀しんだものはいなかった。両親は離婚、引き取り先の叔父と叔母には冷たくあしらわれ、語り合えるような級友はおろか、彼女には心の支えとなりうる他人はいないに等しかった。 そんな彼女自身、自らの入院にほのかな喜びを感じはすれど、哀しみなど欠片もなかった。あの煩わしい場所から離れ、消毒液臭い病院に寝泊まりすることは、彼女にとって大した問題になりえなかった。 問題であったのは、医師の宣告である。 子宮ガン、手術後の経過は良好であるにしろ、あなたは恐らく子を産めぬ体になるであろうと。   「ホルモン分泌部位の損傷が激しいです。恐らく、彼女はこれから女性らしさを失います。」 アーデレが、今後静養することになる病室へと案内を受けるため医師の部屋を去った後、しばらくの沈黙を破って医師が口にした。話を聞く叔父たちは、あまり意味を理解出来なかったらしく、互いに顔を見合わせて首をかしげた。 「…と、いいますと?」 「ガンの治療はひとまず成功でしょう。が、既に破壊された器官を治すことはきわめて困難だという話です。彼女の場合、発見時点で分泌器官のほとんどが侵されていました。転移を避けるため摘出しましたが、恐らく…」 「構わなくてよ。」 うつむく医師に、叔母が声をかける。 「もとより女らしさなんて持ち合わせてない子だもの、大した障害になりえないわ。」 「しかし、しかしですね。ホルモンバランスが安定しないとなると、精神的にも宜しくないのです。ここより大きな病院ならば治癒できる問題です。紹介状を書きますから、そちらへ…」 「いいんだよ。」 切り裂くかのような叔父の冷たい口振りに、医師ははっと息を飲んだ。 「これ以上、あの子にかけれるお金もないんでね。」
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