色褪せないガーデン

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 空がひび割れていた。紅い夕暮れと青い雲海の攻めぎ合いがあった。  塔の最上階から憂いげに見つめる魔女。 「ああ、王子よ。王子。どうしてそなたはかくも愛おしいのか」  魔女と王子の出会いを繋いだのが、隣国の姫だった。呪いにかけられた姫に一目惚れした王子がやってきた。どうかあの娘を救ってください。ワラにもすがらんとする姿に魔女の心が熱を帯びた。魔女にもまた呪いがかけられた。恋の呪いである。  うぶな魔女はなんの条件も出さずに、姫の呪いを解いてしまった。呪いの消滅を聞いた王子が泣いて喜んだ。魔女はそれを見ただけで胸が一杯になっていた。褒美を、地位を、と申しでた王子。魔女はどれも受けとらなかった。すでに魔女の中で何かを得ていたのである。申しでを受ければ、その何かを差し出してしまうような気がしたのだ。  結婚式の招待状が届いていた。  王子と姫の結婚式である。  魔女は空と同化するような、高い城に目をやる。 「ああ王子よ、王子。わらわの呪いが解けるのはいつ、いつか。この瞳が乾くのはいつ、いつか。心の蔵が止まるのはいつ、いつか。わらわの血は紅く濁っている」  魔女は王子の筆跡を指でなぞる。
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