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†
そこは正に生存と惨死の境界だった。
視界には硝煙と砂煙。
鼻腔は火薬と鉄の匂いに支配され、聴覚に至っては延々と鳴り響く破裂音に機能を麻痺していた。
散開した兵士逹は皆等しくある一点を凝視している。
「撃て撃て撃てぇ! ぶち殺せっ!」
狂乱とした声で誰かが叫んだ。それに続く爆発音。捲り上がったコンクリートが一瞬で赤黒い滲みに塗り潰される。
油断と判断ミスが即座に命を奪っていく。
そんな死の気配が蔓延する戦場に在りながら、誰一人後ろを振り向かない。臆しない。
向かう先は地獄だと知りながらただ愚直に突き進む。
だが誰がそれを無謀と笑えるだろうか?
彼らは知っているのだ。
この地上に自らが生きる場所が存在しないことを。逃げる先など有り得ないということを。
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