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内気なのが嫌なのでいっそのこと大声を出して注目を集めて見よう。
せーの。
と言えば大声を出すかと思ったら大間違いである。そんなことを出来るなら内気な性格にもなっていないし、というか教室でいきなり叫ぶ奴がいようものなら、そいつはただの変態だ。
自分は内気が嫌なだけで、変態になりたいわけではない。
そう結論付けて、片倉ミツルは現実に戻ってきた。
現実というのは、世知辛いものだとミツルは思う。生まれた時に容姿は決まり、家庭は決まり、性格も、ついでに未来まで決まる。
生まれた時に、その人の人生の八割はレールの上に敷かれる。残りの二割が、舵取り。つまり本当の自分だとミツルは常々考えている。
だから、自分の内気な性格も仕方ないものだと上辺では割り切っていた。
まぁ、割り切ったからといって現実が変わるわけではない。現に片倉ミツルは一六にもなって彼女は一度も出来たことはないし、友達も数えるほどしかいない。
イジメの対象にならなかっただけまだ増しな人生だとは思う。思うが、内気な性格は好ましいものではなかった。
女の子独特の高い笑い声が聞こえた。
ミツルがそちらを向くと、教室の中心で生徒たちと談笑している一人の女生徒が目に入る。長い金髪に、整った顔立ちの見た目ハーフっぽい女の子だった。
そう。あんな感じ。
誰にでも気楽に、しかも隔たりなく触れ合えるもはや天性としか思えないような明るさ。あれこそがミツルの理想のそのものと言っても過言ではない。
ぼけーっと眺めていると、不意にその女生徒がこちらを向いた。慌てて目をそらすが、ほんの一瞬だけ目が合ってしまう。ミツルは顔が赤くなるのを自覚した。恥ずかしさで死にそうだった。
話声がやまないところを見るに、女生徒の方はそれほど気にしていないのだろう。しかし分かっていても恥ずかしいことは恥ずかしいのだ。
たっぷり一分かけて、ミツルは顔を上げる。それからもう一度さっきの女生徒の方に目を向けて――見知った顔が視界を占領してきた。
「う、うわっ!」
驚きのあまり椅子ごと後ろに倒れる。盛大な音に注目が集まるが、それがミツルだと分かると、注目は薄れていく。
瞬く間に教室は活気を取り戻した。
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