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まるで何もなかったかのような挙動に惨めな気分になるミツル。そこへにゅっと、手が伸びてきた。
「大丈夫かミツル、ほれ」
「あ、ありがとう高橋」
礼を言いつつ、その手を取る。
「そんなつまんねー顔してないでよ。ズボン、汚れてるぜ?」
顔には出していないつもりだったのだが、実はそうでもなかったらしい。適当に笑んで返し、ミツルはズボンの後ろ側を手で叩く。
「ありがとう……でもな、高橋。前にも言ったけど、いきなり近付くのやめてくれよ。びっくりするだろ?」
本心から言ったのだが、何故か高橋は笑い出した。指摘されてせっかく戻った眉間に、さっきとは種類の違う皺が生まれる。
「またそれかよ。お前いい加減になれろよな。もう二年目だぜ二年目!」
「月日は関係ないって。問題なのは俺の心なの……」
「あー、良い、良い。お前が内気だってのは分かったから、機嫌悪くすんなって」
ミツルが続けようとしたのを遮り、高橋は言った。
「ってかよ、そろそろ高橋って呼ぶのやめねー? さすがに二年目なんだし、下の名前で隼人って呼んでくれよ」
言いながら、どこか諦めているような素振りだった。
それに対するミツルの答えは、
「やだよ恥ずかしい。俺が高橋のことを隼人って呼んでるのが他人に聞かれたりしたら、多分俺死ぬと思う」
「どんだけ恥ずかしがり屋なんだよ」
あっさりと断られても、高橋から笑顔は消えない。高橋とはそういう奴なのだ。
ミツルはそんな高橋を見て、改めて思う。
……羨ましい、と。
高橋はミツルにとって親友である以前に、ある意味尊敬に値する人物だ。理由は至極単純で、明るいから、である。
それに加えての爽やかなイケメン顔。髪型は流行りに乗ってはいるが派手な感じはしないし、身長も一七〇後半ある。
外見もさることながら、成績優秀のスポーツ万能と、羨ましいを通り越してたまに憎らしく思わなくもない。
それなのに彼女を作らない、という高橋の考えはミツルには理解不能な部分もあった。が、それを差し引いても羨ましい。
隣の花は赤いとは、良く言ったものだ。
全く以て羨ましい。
「な、なんだよそんなに見つめて……俺にその気はないぞ?」
「安心しろ。俺にもない」
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