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雪が降る。
それは楽しそうに、しかし静かに、優雅に。
鈍色の空から無数に降り注ぐそれを眺めながら、瑠璃は溜息をひとつ吐いた。
「……遅い」
遠目に見える繁華街は人で溢れ、喧騒が辺りを包んでいる。十八時。夕暮れはとうの昔に過ぎ去り、夜の帳が降りている。
閑散とした駅前の広場一面を真っ白に染め上げるそれは、瑠璃の髪も白く染め上げていた。
「……遅い、寒い」
決して恋愛関係などとは、関係的にはおろか、性別的に無縁の旧友と落ち合う約束は十七時、一時間の遅刻。
「天体観測、か」
言葉を発するや否や、瑠璃の口からは白く靄が上がる。呼吸に合わせて白く、白く。
「この空じゃ、星はおろか月すら見えない」
瑠璃の隣には木製の大きな箱。高さにして1.52メートル、幅にして0.43メートル、重さにして13.3キログラム。キャスターの付いた、漆黒のその箱は何も表記が無く、内容物が分からないようになっている。
「こいつを運ぶのにどれだけ苦労したと思ってるんだろうな。何とも思ってないか」
溜息を一つ。
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