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箱の中身は天体望遠鏡。生活費を切り詰めて入手した貴重な一台。
「……よくこれを運んできたもんだな」
瑠璃はここまで電車で来た。つまり、この黒光りする怪しい箱も、瑠璃と共に電車でここまでやって来たのだ。
「ママー! あれなに?」
「しっ、見てはいけません」
瑠璃が今いる、駅前のベンチから数メートル先、小さな少女が彼を指差して叫んでいた。
道中、何度目かの同じやりとり。
「……視線がイタイ。お嬢ちゃん、視線がイタイよ」
ポツリと呟く。
「お兄ちゃん、なんか言ってるよー」
「しっ、早く来なさい!」
半ば強引に少女の手を引き、母親と思しき人は足早にその場を立ち去った。
「ふぅ……」
溜め息を一つ。一体、本日何度目の溜め息なのだろうか。
「おーい、瑠璃君」
人影一つ。小走り気味にこちらへ向かってきた。
「ずべらっ!」
小走り気味にこちらへ向かってきたそれは……瑠璃の目の前で激しく転んだ。
「眼鏡、メガネ、めがね」
「はい」
眼鏡を差し出す。
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