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車両のステップに足をかける。車内の暖かい空気が頬にあたる。
外の擘(つんざ)くような空気の冷たさとは無縁の、柔らかい温風が車内を駆け回っていた。
細い通路の先、自分の席を見つけ腰を落ち着かせる。窓際の席。窓の外にはコンクリートでできている防音壁が見える。この壁の向こうには見慣れた町が広がっているはずだ。わたしの住む町の姿が。
明かりの消えない高層ビル達。様々な色の光を放つ電光広告板。幾千の靴音。眠らない町。
この町ではわたしの存在なんてちっぽけで、本当に小さな存在でしかないと思うほど、この町は大きいことをここで改めて感じる。
途方もない虚無感。しかし、それも列車がゆっくりと動き出すにつれて、ゆっくりゆっくりと溶けて無くなって行くのを感じた。
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