3人が本棚に入れています
本棚に追加
銀色に輝く二本のレールを滑るように列車は進む。一定に間隔で体に伝わる振動が心地よい。
カタン、コトン。カタン、コトン。
列車の奏でる音に耳を傾ける。
カタン、コトン。カタン、コトン。
音を身体で聞く感覚。骨から響き伝わる深い音。
コンクリートでできた灰色の壁はいつの間にか姿を消し、眼下には眠らぬ都市が広がっていた。高架橋から見る、光で溢れかえった都市は、日がすっかり暮れているにもかかわらず、それを全く感じさせない。
「お嬢さんはどこまでだい?」
不意に横から声が飛んできた。
隣には年配の男性が一人座っていた。わたしが乗った駅で、一緒にこの車両に乗ったことを覚えている。
黒い背広と黒いネクタイ。そして彼の醸し出すその雰囲気が、弔事があったことを鮮刻に顕していた。
その服からは線香の匂いがした。
わたしは首を少し傾げた後に、鞄からスケッチブックと青いフェルトペンを取り出し、龍雪町まで。と記した。
彼はわたしの行動に少し戸惑ったような素振りを見せたがやがて、あぁ、そうか、うん。と、どうやら彼なりにわたしのことを納得したように見えた。
最初のコメントを投稿しよう!