昔日

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 あれは十二年前の、冬のことだった。もう明日香が死んでから十二年にもなるのか……。  鉛色の空からは幾千という牡丹雪が舞い降りて、それはまるで、先日までの景色を真っ白に塗り替えるかのようだった。  真っ白に、全部、真っ白に塗り替えるかのように……。全て、無かったことにするかのように。  明日香は私の一人娘だった。と言っても、血の繋がった本当の親子と言うわけではなかったがね。養子として、彼女を受け入れたんだ。それはまだ、彼女が四つの時のことだった。  彼女を養子にしたあの日も、静かに雪が降っていた。  明日香もお嬢さんみたいなくりっとした目をしていたよ。  そこまで言うと彼は、ため息を一つ吐いて、わたしの目をじっと見つめた。  まるで、わたしの瞳の向こう側に居る明日香を見つめるかのように。
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