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その時、さあっと、緩やかな風が吹いた。
雪が流され、私の頬を優しく撫でる。
「……実桜」
不意に、どこからか、透き通ったアルト声が、私の名前を呼んだ。
「え?」
びっくりして、声がした方に目を凝らした。
遠くに、うっすらと人影が見える。
………誰…?
「実桜……。俺の可愛いお姫様……」
……お姫様…?
とても、悲痛な声。
どこか、懐かしい声。
お姫様って、どういうこと……?
「……貴方は、誰……?」
小さく小さく、独り言のように、問いかけた。
「俺は……。実桜、必ず会いに行くから……」
会いに行く……?
私に?
「だから、待ってて、実桜……」
「えっ……。ちょっと待って!私の……っ!」
私は、人影に近づこうと、一歩足を踏み出した。
「ねぇ、待って………!?」
ビュオォオオオッッ
もう少しで、人影の顔が見えそうだった時。
突然の強風に、私は目を閉じた。
雪が顔に当たって、さっきまで何も感じなかったのに、痛い。
心も、なぜかキリキリと痛い。
体の底から寒気が襲ってきて、鳥肌が立った。
「……ごめん。必ず、会いに行くから……。実桜、忘れないで……」
また、アルト声が聞こえた。
「ま、待って……!私のっ、私のっ……―」
……私の、何……?
……知ってる、あの人影。
懐かしい、彼。
会いたいよ。
あの人は、私の……―。
「……私の、王子様……」
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