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「それはまた随分変わった病気なんだね」
〈そう、私は気にしない〉
下らなさそうな瞳はどこか遠くを見ている。
まるで何かを思い出している、そんな風だ。
やがて彼女からこんな提案を持ち掛けてきた。
〈私の歌、聞きたい?〉
歌、か……。
そういやプロ以外のを聞く機会って中学以来なかったな。
それに、彼女の声がどんな声なのか聞いてみたいし。
「そう、だな……聞いてみたいかな」
〈解った。曲は何が良い?〉
嵯峨根さんは携帯音楽プレーヤーを取り出し、俺に渡す。
この中から選べって事か……。
聞いた事がある曲がチラホラとあるが、どれも独唱向きのものではない。
……そういう曲でも良いんだろうか。
「この中の曲だったら何でもオッケー?」
〈イエス〉
どうやら何でも来いらしいので仕方なく独唱に不向きな曲にした。
その曲を聞きながら歌うのか、彼女はイヤホンを付けた。
そして、彼女の口から声が発せられる。
透き通った声。
強弱がはっきりとしているその歌い方は全てを引き込む要素がある。
一人で歌っているはずなのに、まるで複数人が歌っているかのように聞こえる。
……メチャクチャ上手だった。
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