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しかも更に悪いことに、タイ軍は、当時の主要先進国軍が当然のように装備していた、歩兵用IFFを装備していなかった。
その上、正規軍も反乱軍も元が同じなので、軍装で見分けがつかない。そういうことでとりわけ、誤射による被害は甚大だった。
正規軍も指揮系統はズタズタで、残党と言っても差し支えないレベルだったのだが。指揮系統が死んでいたので正規軍との連携もとれなかった。
僕も反乱軍と武装勢力の兵士を、何人かわからないほど殺したが、あの中に誤射が無かったと言い切れる自信が無い。
国連軍の被害も甚大だった。
どうやら何処かの国――所謂テロ支援国家だと思うが――が反乱軍を支援していたらしく、敵の勢力はいつまでたっても衰えなかった。
普通、こういうミッションでは多国籍軍が反乱軍をタコ殴りにするが、今回は勝手が違っていた。
UNTSMのヘリはどんどん撃墜され、地上戦は泥沼と化した。
その昔、ソマリア内戦を舞台にしたノンフィクション映画――と聞いているが――、「ブラックホーク・ダウン」というのを観たのだが、正にあのままだった。
ただひとつ違うのは、臭いがあることだった。
映画では飛び出した腸や壁を赤く染めた血や、航空燃料に引火して燃える臭いは伝わってこない。
だが、あそこでは、それら全てが、実体を伴って存在していた。
映画ではない、現実の戦争。現実の血の、肉の、死の臭い。実際に体験したものでないと、わからない、いかにも胸くそ悪い感覚。
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