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そう、ぼくはあの場から逃げてきた。
僕には、耐えられなかった。ついさっきまで隣にいた戦友が、次の瞬間には、赤い血飛沫となって、ぼくに降り注いだのだ。
考えてみれば、おかしな話だった。
自分も何人もの敵兵に、その同胞の血飛沫を、肉片を浴びさせておきながら、いざ自分にそれが起こると、どうしようもなく恐ろしくなるのだ。
一昔前なら、戦場から逃げ帰った兵士は、臆病者だとかなんとか言われて軽蔑の対象にすらなり得ていた。
しかし、時代はそうではなかった。それもそうだ。あの当時、日本のテレビ局の戦場カメラマンはこぞって現地入りし、危険を顧みず、せっせっと阿鼻叫喚の地獄絵図を電波に乗せて日本に届けていた。
そしてある日、生中継中に、テレビ画面が、戦場カメラマンが原料の深紅に覆われた。不幸なことに多くの人がそれを目撃し、全国のセラピストには、大量の仕事が舞い込んだそうな。
とかく、多くの人がそれ以来、戦争のリアリティ(臭いは抜きで、だが)というものを知っていたので、僕のようにPTSDやASDに罹患して帰国した兵士を責めたてるような人は、余りいなかった。もちろん、敵前逃亡はその限りでは無いが。
僕はUNTSMから帰還した後、軍から退いた。兵庫県の片田舎で戦争とは無縁の生活を、精神の療養を兼ねて、のんびりと送っていた。
そして例のあの日以来、再びこの血腥いショーの舞台に帰ってきたのだ。
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