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そして、彼らが僕に飛びかかろうとした時。
不意に歌が聞こえてきた。
それは、とても柔らかい歌で優しげな原っぱをイメージさせる。
完璧で絶対なるその女性の声は幾重も音階を変化させて音のカーテンを作り出していく。
蒸し暑く、異常な光景なその場の事なども忘れさせてしまうぐらい、その歌は美しく可憐で……。
僕はその歌声の主を知っている。
シミ一つない真っ白なスカートに校章が金色の刺繍で刻まれてるこれまた白色のブレザー、一点を際立たされるように結ばれてる赤いリボン。
隣の白百合の制服に身を包んだ正真正銘の女の子。
ガラス玉がそのまま入っているかのように綺麗で大きいアーモンドの形をした黒色の瞳。
腰ほどまである真っ直ぐで艶のある髪は後ろで一つくくりに。
高い鼻に血色のいいピンクの唇。
スカートからモデルのように美しい足が光を放っていて、トレードマークの赤いカチューシャが今日も頭の上で炎のごとく燃えさかっている。
「静!」
叫んだ僕をその真っ直ぐとした瞳で見据えるとふっと笑いかけ、片目をパチリと閉じた。
彼女の名前は泡沫 静(ウタカタ セイ)
僕の昔からの幼なじみで、今のところはふわふわとした関係なんか立ちそうにもない。
ただの幼なじみであるはずの彼女が何故こんなところにいるのかだとか、色々聞きたいことはあったわけだけども、とりあえずは彼女が"合図"をしたんだ。
それはつまり、やるべきことができたってことなんだ。
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