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「勇! 遅い!」
玄関を出た僕を待ち受けていたのは静の笑い顔だった。
その日の静は白を基調としたフリルスカート。
そのスカートから伸びる脚線美には思わず目が伸びてしまう。
そして、アクセントとしての赤いカチューシャ、紺色のカーディガン。
その容姿には思わず胸が高くなってしまう。
朝一番の僕に対して少し大きい刺激である。
僕が図らずしも目の前の少女に見とれていると、その少女は僕を見ているうちに笑い出した。
「ごめっ……、もう限界――――アハハハハ!」
腹を抱え込んで笑っている彼女に対して僕はふと回りを見渡す。
何かそんなに面白いものがあったのだろうか。
しばらくして笑いをピタッと止めた静が指さしたそれは――市販の新品の服には何にでもついている"アレ"であった。
「そ、それは……」
サイズや価格が書いてあるあのカードである。
まったくもって外すのを忘れていたどころか、ついていたことすらもわからなかった。
「勇ったらそれ付けたままの状態のままなのに、玄関でるなり真面目な顔してキリッとしてるから」
またちょっと吹き出しそうになりながら静は僕のそのカードに手をかざす。
「じゃあ、邪魔だからもう私がとっちゃうね?」
そう言ってニッコリ笑うとどこからか一瞬――――風が吹いた気がした。
そして、静が手のひらをひらりと裏返すと、その細い、綺麗な指と指の間に例のカードが挟まっていた。
超能力か……。
「能力の無駄遣いじゃない?」
僕が苦笑しながら尋ねると、静はクスリと笑う。
「いいのよ、私の嫌いなものだからその分酷使しないとねっ!」
静は僕の前では、存分に我が儘だった。
僕は溜め息混じりに大きく息を吐き出す。
彼女の黒いガラス玉みたいな大きな瞳がこちらを覗いていていて――
「ねぇ? そろそろ行こうよ!」
正に天真爛漫な笑顔を浮かべ、手を差しのばす。
そうか、僕の世界は今日も回ってる。
"彼女"を中心に回っている。
僕は彼女が差しのばした手をとらずに、ゆっくりと歩き出した。
横で静が不満げにしているがきっと気のせいです。
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