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電車を降りると、そこは新しい街だった。
電車にゆらゆら揺れること数駅、僕らは少し大きな街にやってきた。
人々が幾重もの波をつくり、ざわめきが常に波紋のように広がっている。
街には高層のビル群が建ち並び、正に発達した都市の姿である。
そして、その中のとある映画館。
僕らはそこへやってきた。
キラキラのネオンが頭上の上で光を薄暗い室内へと少しずつ降り注がせる。
人々はカウンターへチケットを求め立ち並び、僕らもまたそこへ加わるのだった。
「ねぇ? 静は何が見たいんだ?」
館内で上映中である映画のワンシーンが流れ、宣伝をしているモニターを指差して僕は尋ねる。
すると静は黙りこくったまま映画観の端に置かれていた映画の立て看板を指差した。
その綺麗な指の先の看板には、明らかにラブコメ臭のする題名と今人気である俳優、女優さんの姿が写されていた。
この系統のラブコメはあれだ。
最終的には女か男が死ぬんだ、どうせ。
そんな安いお涙頂戴劇を僕はあんまり見たくない。
そういうわけで僕は静の希望を無視して自分の希望を押しつける作戦にでることにした。
「ねぇ、静? アレとかいいんじゃない?」
そうやって僕が指差したのは割と有名なハードボイルドガンアクションの映画。
昔やっていた映画をリメイクしたものだ。
そして、僕の好みにドストライクである。
どう?とばかりに静の顔を望み込むが、静はツーンとした態度でプイッと違う方向を向いてしまった。
このままだと、静に強制的にあのラブコメ臭のする映画にされてしまうかもしれない。
ある危機感を抱いた僕は彼女の顔をのぞき込もうと少し前に進んでから振り返った。
目が合う。
ガラス玉のように大きくて、キラキラ輝いてる瞳。
その瞳の中に鏡のように僕が映ってる。
「……静――」
僕が説得を試みようと唇を動かしてみるが、その瞬間にまた顔を反らされてしまった。
……僕に映画を選ぶ権利はないと!?
それでも、そのまま引き下がるのは悔しい。
僕は何とかして食い下がることにした。
まずはまた目を合わせることだ!
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