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僕は大きく溜め息をつきながら、ゆっくりと上映場所へと振り返った。
「それじゃ、向かおうか?」
「え? 何を言ってるの? ポップコーンとかどうするの?」
まさに無邪気そのものの瞳にクエスチョンマークが浮かび上がる。
多分、彼女に悪気はないんだ。
でも、ね。
「それじゃ、並びに行こうか?」
子供をあやすように、諭すように静に聞く。
「嫌、私並びたくない」
……このお嬢様気質が。
勇なら買ってきてくれるよねっていう純真そうな目で見てくるのは止めてくれ。
振り回されるのも構わないけど、たまにやるせなくなるよね。
「じゃ、静の分は買ってこなくていいよね?」
当然のように僕は静に問いを投げかける。
「え? どうして?」
若干涙目になる静。
そのガラス玉のような瞳に水分が付着し、ネオンライトに当たってキラキラ輝いた。
こんな言葉だけでいとも容易く涙を浮かばせてしまう彼女。
その様子は子供のようで、ただ駄々をこめている子供のようで、いつも僕以外の誰かに見せている大人な一面とはまた違う。
どこか、彼女にとって僕は必要なのだろうか?
わからない。
そして、涙目で見つめてくる静と目が合って、思わず苦い笑いがもれる。
「いっしょに買いに行こうよ、静」
そう聞くと静はプクーッと頬を膨らませ、不満そうに言った。
「いいよっ! 勇には私のポップコーン分けてあげないから!」
その言葉に対して小さく笑ったのが静の勘にさわったらしく、機嫌を直すまであんまり口を聞いてくれませんでした。
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