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薄暗い館内。
どこかにスピーカーでもあるのか人気歌手の曲が控えめに耳に流れ込んでくる。
そして、隣には黙々とハチミツ味のポップコーンを口に運ぶ静。
絶対に塩味の方が美味しいのにな……。
そう静に意見するも、さっきからご機嫌斜めらしく口を一切聞いてくれない。
そればかりか僕の塩味のポップコーンを……ん?
僕のポップコーンからハチミツのような甘ったるい香りが匂ってくる。
まさかね。
試しにひとつまみ口に放り込む。
舌に広がるのは母なる海の加護ではなく、虫が集めし大地の甘味、紛れもないハチミツ味。
どうやら静にいつの間にやら塩味をハチミツ味に変えられていたらしい。
こんなこと……、少し頭に血が昇るのを感じた。
「静! 僕は塩味の方が好きなの知ってるだろ? なんでこんな酷なこと……」
わずかに声を張り上げてしまい、回りからの冷ややかな視線が僕の体に突き刺さる。
ここでこれ以上声を出すのはタブーだ。
僕はおとなしく唇を閉じた。
静には塩味のよさなんかわかんないんだ。
ポップコーンは塩味が至高なのに、甘ったるいハチミツ味になんか。
そう僕がぶつくさ言っているうちに館内は更に暗くなり、目の前のスクリーンに映像が映し出された。
もうすぐ上映か……。
僕は目の前のポップコーンを黙々と口に運び、目を目の前のスクリーンに集中させた。
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