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上映が終わり、明るくなった館内。
ガヤガヤと皆一様に出口に向かって歩いていってる。
上映を終えた館内などには何も用なんかないですもんね。
当たり前っちゃ、当たり前の現象です。
隣にはスースーと穏やかな寝息をたて、幼児のように可愛らしい寝顔で寝ている静。
艶々している長いまつげがヒクヒクと動き、桃色に血色のいい唇から甘い可愛らしい寝息が漏れていた。
「静。 静起きて!」
軽く肩を揺さぶって彼女の意識をとり戻そうとする。
「せーいー! せ~い~?」
誰もいない館内で静の瞼がパチリと音をたてて開かれ、目の前に大きなガラス玉のように綺麗な瞳が現れた。
「……勇。 うるさい」
五月蝿い。
五月に蝿にいと書いてうるさい。
不機嫌そうな声で彼女は伝えると、そのまま瞼を閉じ、また夢の世界へと潜り込んで――
「って寝るなー!」
彼女の耳元で絶叫した。
もう、叫んでおかないとやってらんないです。
……さすがに耳元で叫ばれ、眠気が覚めたのか、目を手でこする。
その後、僕は静の荷物を持ち席を立った。
彼女も不機嫌ながらもついてくる。
小声でぶつぶつ言っているのが怖いんですけどね。
死の呪文とかじゃないよねっ?
背中に冷たい汗が流れたのが自分でもわかった。
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