First Love

9/26
前へ
/110ページ
次へ
*** 上映が終わり、明るくなった館内。 ガヤガヤと皆一様に出口に向かって歩いていってる。 上映を終えた館内などには何も用なんかないですもんね。 当たり前っちゃ、当たり前の現象です。 隣にはスースーと穏やかな寝息をたて、幼児のように可愛らしい寝顔で寝ている静。 艶々している長いまつげがヒクヒクと動き、桃色に血色のいい唇から甘い可愛らしい寝息が漏れていた。 「静。 静起きて!」 軽く肩を揺さぶって彼女の意識をとり戻そうとする。 「せーいー! せ~い~?」 誰もいない館内で静の瞼がパチリと音をたてて開かれ、目の前に大きなガラス玉のように綺麗な瞳が現れた。 「……勇。 うるさい」 五月蝿い。 五月に蝿にいと書いてうるさい。 不機嫌そうな声で彼女は伝えると、そのまま瞼を閉じ、また夢の世界へと潜り込んで―― 「って寝るなー!」 彼女の耳元で絶叫した。 もう、叫んでおかないとやってらんないです。 ……さすがに耳元で叫ばれ、眠気が覚めたのか、目を手でこする。 その後、僕は静の荷物を持ち席を立った。 彼女も不機嫌ながらもついてくる。 小声でぶつぶつ言っているのが怖いんですけどね。 死の呪文とかじゃないよねっ? 背中に冷たい汗が流れたのが自分でもわかった。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加