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膝をつき、涙を溢れさせ、全てを拒絶するかのように力を周りに放出させている少女。
僕は今から彼女を、――静を助ける。
誰のせいでこんなことになったかなんて僕は気にしないし、自業自得だとも思えない。
彼女は一度痛い目にあわないと分からないことなのかも知れない。
それでも、ピンチに陥った彼女を助けるのが僕の役目だから。
目の前の暴風域は近くにあるものを引きずり込み、宙に暴れさせ、一種の弾幕とまで化していた。
しかし、その中心には彼女がおり涙を浮かべいる。
僕がそこへ向かう理由なんてそれだけだ。
一瞬の隙を見つけ、僕は力の渦へと切り込んでいった。
思っていた以上に入るのに抵抗はなく、また、その中に風もない。
力に阻害される感覚もなく、まるでその円の中では僕と静だけが重力に縛られているようである。
「静!」
叫んだ声は涙を滲ませた無表情の少女に届くこともなく、どこか虚空へと吸い込まれていくだけだった。
一歩足を進むたびにどこからか飛んできた障害物が僕を襲う。
暴れ馬と化した物は容赦など感じさせる暇がないぐらいに次々と飛びかかってきた。
左から人、前からは廃材である横に長い木材が。
ぐるぐると回りながらこちらへと。
間一髪右後ろへと跳び、二つの砲弾を避ける……が、息継ぎする余裕もなく今度は右から、左から、前から。
避けることばかりで全くもって前に進むことはなく、それどころか中心の静からは遠ざかるばかりだ。
後ろから何かが当たりぐらりとバランスが崩れる。
死角からの動く障害物など避けれるはずもなく僕は思いっきり地面へと。
手をついて顔面強打は防いだが、この暴風域の中で止まったままでいることはほぼ、自殺行為であった。
刹那、僕はたくさんの物に襲われた。
身体には痛みと衝撃が連鎖し、吹き飛ばされまた吹き飛ばされた後、やっとのことで地面への感触を取り戻す。
肺から空気は抜け、息は否応なしに上がった。
ふと、空を見上げると夕暮れは工場内の屋根の隙間から差し込み、僕と静を照らす。
まだ、まだ終わってない。
まだ僕は動ける。
僕はまだ――――
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