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少女の落とした雨さえも天を舞い僕の頬へと落ちる。
その輝きは僕の体に潤いを与え、力を与え、意志を与えた。
助けたい。助けたい。助けたい。――絶対に。
「静、待ってて。 すぐにそっちに行くから!」
彼女に届くように願いながら叫んだその言葉は工場内を響き渡り、彼女の鼓膜には届いた。
僕は地に足をつけゆっくりと立ち上がった。
見据えた先は彼女――泡沫 静の下。
目の前を舞う天の漂流物は心なしかさっきよりも少し穏やかに見えた。
足の骨は軋み、口の中の傷から鉄分が染み出し、体は悲鳴をあげている。
しかし、今の僕にはそんなことまったくもって関係ない。
助けるだけだ、彼女を。
走り出した。
僕の視界はクルクルと回り、宙に浮かぶ物々を映す。
木材、人、何かの機械、そして涙。
それらのものをよけることなど考えず、ただ走った。
ただただ走った。
目の前へと飛んできた障害物は僕の皮膚を切り裂き、彼女の涙は心を切り裂く。
痛みと涙がギュッと染みた。
それでも足は止めない。
いくら怪我しようと、いくら吹き飛ばされようとも。
また、全力で走っていてもスピードはそこまででず、酸素を無駄に消費するだけ。
静と僕との距離は劇的に縮まる事はなく、徐々に狭める。
ちょうど前を何か巨大な機械が横切る。
一瞬で横切ったということもあったが、その灰色の閃光は僕の足をつまづかせた。
ゆらりと体全体が揺れ、前へと体重がかかり、世界が傾く。
だけど転ぶわけにはいかない、斜めになった世界を戻すべくそのまま足を前に出し、僕は進んだ。
ふらふらとしながらも、世界が斜めに傾こうとそのまま走る。
後ろが何かに引っかかろうとも、君の涙を拭くために。
手を伸ばせば届く距離。
今度は離さない。
絶対に離してやらない。
今度こそ守るから。
もう泣かせたりしないから。
膝と手をつき、無表情であるのに涙を浮かべる彼女。
その静に向かって伸ばした手と手を絡め――
――――そっと抱きしめた。
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