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「……静、もう大丈夫だよ」
他人に干渉された結果、意識が戻った目の前の少女は静かに嗚咽を漏らした。
宙に浮かんでいたものはその少女の力の影響を受けず地面に落ちていく。
うねっていた艶やかな黒髪は重力に従い、下へ。
「大丈夫、大丈夫だよ」
彼女だけじゃなく自分にも言い聞かせるように、僕は"大丈夫"という言葉を繰り返した。
そして、もう静を離さないぐらいにギュッとギュッと抱きしめた。
僕の腕の中で小刻みに震える肩、少しだけ聞こえる泣き声と嗚咽。
この小さな肩にどれだけ負担をかけてしまったのだろうか?
"また"、静の心が壊れてしまったら僕はどうするべきなのだろうか?
しばらくすると僕の服にうずめていた静の顔が頭を上げた。
少し吊り目がちの大きな瞳が僕の目を真っ直ぐ見ている。
「勇、ごめんなさい。 こんなことに巻き込んじゃって……」
そう呟いた彼女の目にはまた、透明な水がたまった。
今にも泣き出しそうなその顔には、先ほど流した涙の後がまだ少し残っていた。
「気にしないでいいよ、僕は大丈夫だから」
「……でも私が――」
「静が悪いわけじゃない」
そう言い放った僕を涙目で彼女は見つめる。
まだ、納得がいかないように見えるから僕はこう付け足した。
「これからは絶対、僕が守るから。 守っていくから。 だから――大丈夫」
そう言ってまた、抱きしめると今度こそ泣き出してしまったようだ。
いつの間にか静の腕が背中にまわっていて、その華奢な腕からは想像できないほどの力で強く――――
僕はその静の背中をポンポンと叩いて言葉をかけるだけ。
少し汚れた天井の隙間からは、綺麗な紅の色が見えていた。
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