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夏のあの日、僕らはいた。
太陽は天高く真上に位置し、耳に流れる音は軽快でポップなメロディー。
辺りは人で溢れ、一定の流れができていた。
「静、どこに行ったんだろう……」
僕は天を仰ぎながらポツリと呟いた。
それに答えるかのように風は僕を撫で、通り抜けていった。
***
「勇! 早く早く!」
少し吊りがちのガラス玉のような瞳を輝かせ、早くアトラクションに乗りたいらしい静がこっちに向かって叫んだ。
「ちょっと待って!」
僕はなだめるためにかそう返す。
そして静の元へと走っていった。
門の前には小さい行列ができており、この場所のテーマソングらしきものが流れている。
テレビよく聞くそのメロディーに僕らがここにいるということを実感させ、ますますテンションは上がった。
ここは黒金遊園地。
国内でも有数の遊園地だ。
売りはジェットコースターだったか観覧車だったか……。
「勇、遅い」
走ってきた静が僕をじろりと見て言った。
「仕方ないだろ、こんなに人が多いんだから」
そう返したとしても目の前にいる我が儘大王はお気に召さないらしい。
静は唇をとがらして呟いた。
「それでもなー」
「そんなことは置いておいてさ。 ほら! 早く行こうよ」
そういって僕は彼女に手を差し出す。
この手を握ってもらいたいから。
この手で繋がっていたいから。
「んんー」
少々不満そうに唸りながらも静は僕の手を握った。
その真っ白な手はとてもふわふわで、柔らかくてすべすべ。
そして、真夏だというのにひんやりと冷たくて、とても心地が良かった。
「逆に勇の手は汗でちょっとベタベタしてる感じかな?」
不意にそう言った静のガラス玉のような瞳は確実に僕を捉えていた。
黒色の円が太陽に当たってキラキラと輝く。
「だから心を読むなって」
「あ、でも別に勇の手がベタベタでも、私は気持ち悪いとかは思ってないからね!」
「フォローになってないぞー」
「えへへ」
「だから誉めてないから」
手をつなぎながら歩いていく僕ら。
目的地はこの遊園地のうりの一つであるジェットコースターだった。
「あ! 勇、見てみて! 乗り場が見えてきたよー!」
目的地が見えてくると同時に静のテンションもまた、高くなっていった。
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