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"ジャンボコースター乗り場"とかかれているその場所には少しの人が並んでおり、待ち時間が発生するようだった。
その乗り場に置かれている調度品は何から何まで小さく、まるで自分たちが巨人になったかのように錯覚させる。
「なるほど、だからジャンボと」
そう僕がぽつりと呟くと、隣でそれを聞いていた静が笑った。
「まるでウルトラマンか何かになったような気分だねー」
「それにしてもよくできてるよ」
僕は周りを見渡して言う。
地面には少し小さいオブジェが立ち並んでいた。
それは僕らが住んでいる街であったり、この前映画を見に行ったビル街であったりと。
その中には小さい人々のフュギュアがいかにも生活をしているように立っていて今にも動き出すような気さえもする。
それほど精巧な作りだったのだ。
「これ、勇の家じゃない?」
静が赤い屋根をした家をさして言う。
「ていうことは手前の青い家は静の家か」
「そして、あそこは私の学校ー!」
そう言いながら彼女はカラカラと楽しそうに笑った。
普通の少女だ。
こう見ていればいたって普通の。
僕も静も夏休みに遊びに来たいたって他と何も変わらない普通の学生だ。
喋って笑ってなんていうこんなありふれた瞬間瞬間が輝いて見えて、非日常の世界にとっては新鮮だった。
非日常が日常、日常が非日常。
矛盾しているようなしていない壊れた世界に僕らは住んでいた。
異常さえも日常だと認識してしまう世界に。
静は異常ではない。
しかし異常だった。
僕から見たら充分正常であったわけで、世界から見たら充分に異常である。
僕ら――いや、彼女にとっては決して生きやすくはないだろうこの世界の中で彼女はどう思っているのだろうか?
そう僕は薄ら笑いの仮面の下で思い、不安になった。
彼女は――
「そんなことはないよ」
巡る巡る僕の思考の中に入り込んだ彼女は口を開いて、僕の思考を割った。
「私はこの世界が生きづらいなんて思ってないよ」
こう言った彼女の黒い瞳はきらきらと輝き、赤いカチューシャは頭の上に鎮座している。
そして血色のいい唇からさらに言葉は紡がれた。
「だって、勇がいてくれてるからね」
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