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そう言った、彼女は満面の笑みを浮かべた。
それはまるで天使のような笑顔だった。
「……静」
「ほら、列が進んでいくよ! 早く進もう!」
呆気にとられていた僕の手を取り静は駆け出す。
言葉はそれ以降続かない。
沈黙を打ち破ろうにも何も言葉は浮かばず、何も聞こえなかった。
その代わりに心臓の音だけが痛いほど聞こえた。
***
「いやー、楽しかったねー」
大好きな絶叫マシンにのり、気分がいいらしい静は言った。
それに比べて僕は明らかにジャンボコースターだけじゃないほどドキドキしていた。
顔が熱く、胸が締め付けられるように苦しい。
やっぱり僕は――
適当な相槌しか打つことは出来ず、僕らの体は次の場所へと進んでいく。
「次は何乗るー?」
「うん」
「お化け屋敷とか楽しいかも」
「うん」
「あ、でもねー。 これも楽しいそうかもー」
「うん」
「勇、聞いてる?」
「うん」
「私のこと、好き?」
「うん……、ってあれ?」
ようやく僕のドキドキが収まったかと思うと今度は目の前で静がモジモジと照れていた。
僕がボーっとしてる間に何があったのだろうか?
そんな静の様子を見ていると自然と僕の頬は緩んだ。「次は何に乗るの?」
「……勇が乗りたいやつがいい」
赤面しつつも答えてくれた彼女。
その答えはいつもワガママな彼女のものとは少し違っていた。
「……お化け屋敷でもいい?」
僕がそう聞くと、静は少しだけ首を縦に振った。
何故だかその仕草にまた――
――キュンと胸が締め付けられた。
二人でお化け屋敷へと歩いていく。
僕ら二人とも口数はいつもと比べてとても少なく、不思議な沈黙が僕らの間を支配した。
隣にいる静がとても遠く感じ、伝わる体温が溶けるくらいに熱い。
心臓が脈打つ音が体の中で跳ね返り、耳の中で響く。
風邪などを引いたわけではないのにとてもしんどい。
しかし、このしんどさはとても心地よかった。
彼女と手がつなぎたい。
繋がっていたい。
けど、手を伸ばすのが怖い。
話しかけるのが怖い。
どうしてだろう。
何度も静と繋いできたはずの手が小刻みに震えている。
僕はいったいどうしたというのだろうか?
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