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ジトーッとした静の視線から逃れるように僕は目をそらして呟いた。
「別に何も見てなかったし……」
「怪しいなー」
そう言う静の目はきらきらと輝いていて、その黒色のガラス玉のような瞳には全てが見透かされてそうだった。
「……まぁ、いいよ。 もうお化け屋敷に着いちゃったもんねー」
静がふぅ……っといった感じで息を吐く。
彼女の言うとおり、お化け屋敷であろうおどろおどろしい屋敷はすぐそこの目と鼻の先の位置にあった。
「勇、早く入ろうよ!」
待ちきれんといった感じで静は僕を後ろから押す。
背中に感じるその手と少しひんやりとする体温。
僕はそれに心なしか胸が締め付けられた。
「入るけどさ、その前に一つ頼んで良い?」
動悸する僕の胸を押さえ、静へと僕は聞いた。
何故か頬がカッカと熱く、静のことを直視できない。
そんな僕に対して、静は小首を傾げて言った。
「んー。 頼みごとにもよるかなー?」
「……あのさ。 手、繋がない?」
僕がそう言った途端、静の表情はニヤニヤと楽しそうに変わる。
「もしかして勇、お化け屋敷怖いんだ」
「違う違う! 静が逃げ出さないように捕まえておくためだって!」
「……ふーん、そうなんだー」僕が何を言おうとも、静はそのニヤニヤとした表情を崩そうとしなかった。
「だから――」
「仕方ないなー、勇がそこまで怖いなら繋いであげるよー」
楽しそうに僕の言葉を遮った静は手をこちらへと差し出した。
その透き通りそうなほど生白い手は太陽の光を浴びてキラキラと辺りに乱反射。
僕の肌と彼女の肌が触れた瞬間、雷が体の中を通ったように僕の体は跳ね上がる。
ギュッと握ったその手はとても柔らかくて軟らかくて、どれだけの力で握ればいいのかと不安になった。
「もっと強く握ってもいいんだよー」
ケラケラと笑いながら静が言った。
「……一応言うけどさ、お化け屋敷とか怖くないから」
「はいはい」
誤解を解きたい僕を楽しそうにあしらう静。
どちらが優勢かなんて火を見るより明らかだった。
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