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アトラクションの中に入ると同時にひんやりとした空気が僕らを包み込んだ。
そこはお化け屋敷という名前に恥じることなく暗く、必要最低限だけしか照明が用意されていなかった。
恐怖を煽る内装の骸骨や人形。
どうやら和のテイストを入れたお化け屋敷。
屋敷と言っている時点で和風なの確定であろうか。
そんなおどろおどろしいところに少しばかり畏縮した静もやはり女の子だった。
「静? なにやら手を握る力が強くなっているのですが?」
先ほどの仕返しとばかりに僕は彼女に笑いかける。
「……いいもん、全然こんなん怖くないもん」
彼女は負けじとそう言うが、いつも強気そうなその表情は強張り、視線は一定しない。
静のトレードマークである燃えるように赤いカチューシャさえも今は弱々しかった。
「静は昔からこんなの苦手だもんなー」
そう言いながらアトラクションに入場。
ここからが本番であり、戦場であり、舞台であった。
「も、もうちょっとゆっくり歩こうよー」
「さっさと歩いて終わった方がよくない?」
「うぅ、それもいいけど。 そっちの方が精神的連続攻撃が……」
大きな目をウルウルとさせ、ビクビクと動く静。
その姿はとても微笑ましく、見ているこちら側としては胸の内がほっこりとポカポカとした。
僕も知らず知らずかニヤニヤと口元が緩んでしまう。
「なんでこんな状況でニヤニヤできるのよー!」
チラリとこちらを見た静が不満そうに叫ぶ。
僕はいつもの静の真似か、えへへっと呟いてみた。
そうすると一瞬だけ、ホントに一瞬だけ静は楽しそうな表情になった。
そして、いつもの僕みたいに呟く。
「だから、誉めてないのよ」
「うん」
「……なによ」
「なにが?」
「……なんでもない」
そんなやり取りをしながら、僕らは進んでいった。
怯えて逃げて、ちょっとだけ笑う。
どんなことがあろうとも、やっぱり楽しいのには変わりはない。
この後、静が行方不明になったとしても………。
***
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