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いったいいつまでこうしているのか?
僕は僕自身に疑問を持つが、不思議と動く気にはならない。
いったいいつになれば彼女は僕を見つけてくれるのだろうか?
いつもみたいに僕は彼女を待っているが彼女の気配は見つからなかった。
ガラス玉のようなキツネ目も、燃え盛るような赤いカチューシャも、黒く艶やかで長い髪を後ろで腰ぐらいで一つに結んだあの髪型さえも。
それでも太陽はいつもと同じく僕らを照らし、輝いてる。
そして綿のような雲は海のような空を流れ、木々は回りを隠し、後ろにあった池は世界を映した。
彼女を見つけられなかった。
僕がどれだけ探しても。
捕らえられなかった。
彼女の生きるスピードが早すぎて。
先程まで掴んでいた彼女の手の感触さえも嘘のように消え、彼女がもはやこの世界にいないようにさえ感じた。
僕はそう思うと同時に、我ながら重いなと笑った。
もちろん爆笑や清々しい笑顔ではない。
心からの苦笑だった。
大きく、大きく風が吹く。
それは汗ばんだ体を吹き抜け、空へと舞った。
今度は優しいそよ風が吹く。
髪を揺らし、頬をさすって消えていった。
それを機に、世界は何かが変わった気がした。
陽炎が僕の周りでゆらゆら揺れ、屈折を生み出す。
熱気は頭を蝕み、クラクラと世界は揺れた。
だからだろうか?
幻が見えているのは。
何か黒い物体を追いかけながらこちらへ迫ってくる女の子。
吊りガチな大きな瞳に赤いカチューシャ。
長い髪の毛をぶんぶん振り回しながら走ってくる僕の太陽。
「勇! それ捕まえて!」
そう叫んだ彼女は紛れもない僕の幼なじみである静だった。
追いかけられているその黒い奴は僕なんか目にないというのか、そのまままっすぐこちらへと驀進してくる。
そいつの後ろには鬼の形相の静。
怯えたように走る黒くしなやかなその体はあろうことか僕へ向かってジャンプしてきた。
僕の胸の中で怯えるそいつは甘えた声で鳴いた。
「にゃー」
「……ねこ?」
僕の胸にしがみついたそいつは黄色い目をしたまごうことなき黒猫。
静に怯えた様子を見せるその猫は僕に助けを求めるようにまっすぐと僕を見ていた。
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