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僕は抱きついてきている猫に対してふっと笑いかけ、言った。
「お前も爪たててるなんて恩知らずだなぁ」
そして目の前にいた女の子に視線を向けた。
「静……」
その女の子は恥ずかしそうにポリポリと頭をかいて笑った。
それを見て僕はため息をつく。
「とりあえず座ろっか?」
***
熱を持った白塗りのベンチに僕らは座り込んだ。
後ろには透き通った池、回りには緑色で染められた芝生に林。
先程と同じ光景。
しかし今度は隣に静がいた。
膝の上では黒猫が泣き、それに対し隣からちょっかいをかける彼女。
いなくなって初めてわかった。
僕の大切な大切な人。
空は白いパレッドに青い絵の具をぶちまけたように蒼く、太陽は空に溶けたように輝いてる。
林を優しく通り抜けた風は僕らをまた撫でつけながら通り過ぎていった。
すると隣で猫と戯れている彼女の髪がサラリと揺れ、キラキラと光を反射する。
「……静、今までどこにいたの?」
そんな僕の質問に彼女はゆるりと答えた。
「ずーっとこの公園にいたよー。 勇こそどこにいたの?」
「えっ? 僕もこの公園にいたよ!」
「嘘! そんなこと言ったって私にはわかるんだよ」
僕が言ったことに対し、彼女は疑り深そうに答えた。
そして、あり得ないといったようにこう続ける。
「……だって千里眼だって使って探したんだよ?」
「信じられないかもしれないけど、ずーっとここにいたんだ」
嘘だと言って欲しそうにこちらを見た静をばっさりと切り捨てた。
「そんなに気になるなら僕のこと、"覗いて"みてよ」
ここまで信じてもらえないなんて心外だ。
ありのままの心を見てもらうために僕は静の目をジッと見る。
う、うんっと彼女は少し嫌そうに小さく首を振ると、並くらいの胸に手を当て大きく深呼吸をした。
やはり、能力を使うことは彼女にとって負担になるらしい。
それにしてはバンバン使ってるような気もするけど……。
「よし、覗くよ」
心と集中の準備ができたのか、彼女は緊張気味にそう宣言すると僕の方をまっすぐ見てきた。
視線と視線とが混ざり合い、黒と黒が交差する。
静の吊り目がちな大きな瞳、そのガラス玉のような黒色に僕の姿が映っていた。
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