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彼女の髪が、瞳が、その姿形が彼女自身が輝いて見えた。
それは鬱陶しいくらいうるさい太陽のせいだったかもしれない。
もしくは僕の目に垂れてきた透き通った汗のせいだったのかもしれない。
ただ、僕にとって静が輝いて見えたということが事実だった。
「どうしたの? そんなにこっちを見て」
うっとりと彼女のことを見つめていた僕に疑問を持ったらしい彼女が笑う。
さわさわと風がなる音がした。
「いや……、さ。 コイツ、懐いちゃったけどどうする?」
僕が指さしたのは僕の膝の上で気持ちよさそうに欠伸をしていた猫。
黄色の瞳を細めながら、小さな口を大きく開けて、にゃあと鳴く。
黒猫は自分の立場もわかってないらしく呑気なものだな、と僕は呆れて笑った。
「もちろん、飼うに決まってるでしょ!」
隣から手を伸ばして猫の頭を撫でた静が一言、断言する。
「でも静の家じゃ少し厳しいかもね」
静の家にはほとんど誰もいないからね。
肝心の静もほとんど僕の家だし……。
そう考えてもやはり静の考えは僕の予想を越えていて、彼女はそれを感じたかのようにウフッと笑って言った。
「なんで私の家で飼うことになってるの? 勇が飼ってよ」
「えっ?」
「えっ?」
「いや、そこで驚かれても」
「えへへ」
やり慣れた掛け合い。
そして、お約束のように彼女は照れたように笑った。
後頭部をポリポリと掻きつつ、目を細めて頬を緩ませている彼女。
あまりの愛らしさに胸が苦しく締め付けられた気がした。
その刹那の苦しみに浸っていたい気さえもするほどに中毒。
いつまでも胸の気持ちに依存していたかったが、その気持ちを抑えて僕らのお約束をポツリ、呟いた。
「だから誉めてるわけじゃないんだけどね」
そう言うと彼女は嬉しそうに唇を吊り上げた。
膝の上で退屈そうにしていた猫は自分のことを忘れてないか?と言わんばかりにすました顔で鳴き声を奏でる。
大丈夫、忘れてないから。
「それじゃ、そろそろ行こうよ?」
黒猫を抱き上げてからベンチから立ち上がり、僕は言った。
「どこ行くの?」
そんな静の問いに僕は猫と一緒に胸を張りながら言った。
「コイツを預かってくれるところかな? 帰るまで預かってもらうと思ってさー」
そんな僕の答えを聞くと、彼女は嬉しそうに頷いて立ち上がった。
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