45人が本棚に入れています
本棚に追加
***
時は少し経ち、二人と一匹は二人に戻った。
先ほどと同じ公園。
しかし、今回は白いベンチの上ではなく綺麗に整頓された緑の絨毯の上にあるテーブルセットに僕らはいた。
色とりどりの食材たちがキレイに整えられ、白いテーブルと映える。
「なんか……、凄い豪華だね」
僕は目の前に並べられた今日の昼食を見て生唾をゴクリと飲み込んだ。
茶色くて何ともジューシーそうな唐揚げ、そしてピカピカと光る白とテカテカと輝く黒の絶妙なコントラストのおにぎり。
どれも静が丹誠込めて作ったものだ。
おかずのどれもが僕の食欲を刺激し、お腹を奏でさせる。
「まぁ、たまには私もねー。 腕をふるわないと落ちるから」
そう彼女はヘヘッといった感じで誇らしげにはにかんだ。
そして、「さぁ、たんとお食べ」というかのように僕のことをキラキラした瞳で見つめている。
そんな静の期待と自信ありげな視線に受け答えるために、僕はいただきますと呟くと箸を手に取った。
唐揚げをひとつまみ、口に放り込む。
その瞬間、静は言った。
「勇のことを考えながら作ったんだからね! 味わって食べてよ!」
……ツンデレ調だと!?
その上少し頬を赤らめ、先ほど僕を凝視していたはずの視線を逸らしているだと!?
そんな普段みない調子の彼女を見たおかげで唐揚げが喉につまりかけた。
ゴホゴホとむせかえる僕に対して彼女が出したペットボトルを受け取り、一気に煽る。
「飲みかけ……。 間接……」
なにやら紅潮した顔でぶつぶつと呟く静。
ふと気づくと僕はそんな彼女のワンシーンワンシーンに目を奪われてばかりだった。
「これ、凄く美味しいよ!」
僕は静に笑いかける。
唐揚げは美味しかった。
だから僕がこう言ったのには嘘偽りもない。
だけども、僕がこう言ったのは素直に感想を言ってのけたわけじゃない。
ただ、彼女の喜ぶ顔が見たかったのだ。
風が運んでくる太陽の香りに、緑の揺れる音。
そして少しの騒々しさの中、僕は彼女のお弁当を食べる。
お弁当はとてもおいしかった。
食材の"声"を聞ける彼女が作ったのだから美味しいのは当たり前なのかもしれない。
しかしやはり、同じことができる彼女以外の人間が作ったお弁当を食べたとしても、僕はここまで心を動かさなかったのだろう。
そう思って、僕はシニカルに笑う。
最初のコメントを投稿しよう!