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人を捜したい、と彼は顔をしかめながら呟いた。
どんな人です? と僕は質問を吐いた。
「とても、とても大事な人なんだ」
播磨さんはそう言うとストンと足元の椅子に座りこむ。
強い風が僕ら三人を包み、草の柔らかな香りを遥か向こうへと届けていった。
播磨さんの漆黒の瞳にはキチンと景色が反射しており、そのボサボサな頭は風でそよぐ。
「それでは早速、探しに行きま――」
「ダメ」
僕の言葉が彼女の言葉によって泡のようにはじけ、行き場を失う。
確固たる意志さえ見え隠れするその少し吊り上がった瞳に見つめられ、僕はなんの言葉さえ続かせることはできなかった。
そして、いくらもしないうちに彼女は言葉を紡ぎ出す。
「ダメよ。 さっきからずっとこっちを見張っている人がいる。 多分、アナタを追ってきた人よ」
ぶっきらぼうに、淡々と、そして冷酷に彼女は彼に対して宣告する。
僕と接している静が100%の暖かさだとするならば、今の静は100%の冷たさだ。
「全部話して」
さっきからうなだれたままの播磨さんを太陽は優しく照らす。
しかし、目の前に座る彼女は彼を見逃したりはしなかった。
そして彼はこちらをチラリと伺うと、なにかを諦めたようにヘラリと笑った。
「私は超能力者だ。 君と同じようにネ」
「あなたも超能力を……」
「そうだ。 だけど私は君のように心を読めない。 私の専門はプロテクト。 暗示、催眠術だヨ」
「だから、静の能力が通じないように心をプロテクトしていた、というわけですね」
「別に静ちゃんの能力が通じないようにしていたわけじゃないヨ」
「――実際の目的とは追跡者を撒くためにあった」
独りでそう呟いた静。
繋いだ手から伝わる体温はいつもと同じように冷たかった。
しかし、その冷たさが少し怖く感じた。
――いつもと違う冷たさで。
「でも、そのプロテクトは私の心の焦りで一時的に剥がれてしまったネ。 そして追跡者はこの場所までたどり着いた」
「なんであなたは追われているんですか? いったいなにに」
「ある組織からの逃走だヨ。 彼女と一緒に逃げてきた」
「そして、この遊園地ではぐれてしまった」
「――で、その人が探して欲しい人なのね?」
静のその問いに播磨さんはそれを肯定するようにコクリと首を振った。
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