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個室はもうあと数十秒で開始地点へと戻る。
そして、そこには播磨さんを待ち構える組織とやらの追っ手たち。
そいつらとの遭遇は確実、避けることなどはできない。
観覧車はカラカラと空虚な音を奏でるように回り僕らを一周させる。
風が、密室なはずの個室の中に風が吹いた気がした。
隙間風だったのかもしれないし、隣にいる静の息だったのかもしれない。
もしくはどちらかの能力によるものかもしれない。
そんな出所不明の風を頬に感じながら、僕は歌うように呟いた。
「いいアイデア? もちろん浮かんでるに決まってるじゃないですか?」
続けて静も言う。
「奇遇ね、勇。 ちょうど私も浮かんだところなの」
やはり、僕たちは息がぴったりだ。
なにも言わなくたっても、しなかっても僕らはお互いがなにを言いたいのかわかっていた。
だから、後はタイミング。
相手の言いたいタイミングを予想してそれに揃えなければならない。
僕は胸の中で三泊数えてから言葉を紡ぎ出す。
「やっぱり強行手段でしょ!」
「やっぱり強行手段よ!」
僕が言ってから少し後に静。
ずれてしまった。
しかし、そんなことに気を落としていてはいけない。
もうすぐ始まるのだ。
僕らがもともといるはずの非日常が。
静はこの世界を生きにくくないと言った。
この非日常の世界が。
だったら、そうだったらなおさらーー。
彼女は僕がいるから安心する。
僕は彼女がいるから強くなれる。
僕は彼女がいるからーー。
大丈夫だ、世界は今日も正常だ。
僕らの世界は今日も歪に正常だ。
風が吹いている。
例の正体不明の風だ。
僕はその風が顔に当たっているのを感じて辺りを見回した。
窓からはいる光が眩しいのか静は目を細めている。
そして、播磨さんは呆れたように笑っていた。
そして僕。
そんな仲間を見て安心した僕は心の中で言葉を唱えることにする。
ーーよろしく、世界。Are you ready?
刹那ーー運命の扉が開いた。
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