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そうやって伝わってきた静がとても泣きそうだったからーー
ーー僕はまるで子供をあやすかのように背中を撫でるんだ。
静を傷つけたくないと僕が何かをしたとしても、最終的には傷ついてしまうのが彼女の運命なのだろうか?
どの道に転んでも傷ついてしまう運命なのだろうか?
そんな運命があるのだとしたら、彼女をそこから解き放つ方法があるのだろうか?
たとえ、僕が死んだとしても彼女を解き放つ方法はあるのだろうか?
そんな風に思ったからだ。
そう思ったから、泣かないで、だとか大丈夫? だとか他愛のない偽善に溢れたセリフを吐いて彼女の頭を撫でれるんだ。
木漏れ日の中、風が吹き、周りの影が揺れる。
それでも、僕らの影は揺れない。
否、揺れることはできなかった。
「……そろそろ行こっか?」
頭をポンポンと叩いて僕は言った。
なんだかんだと時間は経っていて、時刻はもう夕焼け目前の夕方直前の時間だった。
春や冬ならこんな時間でも日はかなり傾いていたのいうのに、夏になってからはこの時間でもまだまだ太陽は元気なのである。
こういうところに季節は変わったんだなと感じる。
「……もうちょっとだけこの体勢キープしていい?」
ポツリと彼女が呟いた。
顔をあげてこちらを見つめる彼女。
そんな静に対して少し苦笑して僕は頷く。
華奢で、白くて、なで肩で……。
そんな彼女の肩が僕の腕の中にある。
とても繊細そうで力を込めれば簡単に壊れそうで。
どうせ他人に傷つけられるのならば、いっそ僕が壊してしまえばいいのだろうか?
もう壊れないように、もっとぐちゃぐちゃにすれば良かったのだろうか?
わからなくて、全然わからなくて、僕は小さく笑う。
狂気だな、と自分でも思う。
こんな狂おしいような感情なんて抑え込んでしまえばいいのに、こんな感情なんて消してしまえばいいのにーー
ーー刹那の破壊衝動に惑わされ、手を震わす僕は狂気だ。
しばらく僕が惑わされていると、身体から彼女の感触が離れていった。
少しだけ残った温かみに僕は触れてみる。
それは、その感触はとても熱くて、とろけてしまいそうで、甘くて、切なかった。
「……行こっか」
「どこに行くのかネ?」
僕が歩き出そうとすると、木にもたれていた彼が言った。
播磨さんのいる方向を振り向く。
彼のいる方向では木々の隙間から赤い赤い観覧車がこちらを覗いていた。
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