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人気のない校内に響き渡る蝉の大合唱。
ウルサいノイズが何度も耳の中をつんざいていく。
建物内のおかげで日光のカットがかなり施されているのだが、シャキッと固めた学校標準装備では汗がどれだけでもマグマの如く溢れ出て、インナーシャツに浸透されていく。
つまりは暑い。
男子校特有の男の何とも言えない香りに校内は天然のサウナになっていた。
「……なぁ、さっきからなんだか視線を感じないか?」
隆平はこの暑さが鬱陶しいらしく顔を不快気に歪めながらポツリと呟いた。
「気のせいと思いたい」
確かにさっきから誰かに見られてるように感じて仕方ない。
背中がジリジリと焼かれているようだ。
「なにかあったとしても俺はお前を容赦なく見捨てるからな」
吐き捨てるように言う彼の額は汗でしっとりと濡れていた。
「そこは助けてよ」
そうしてくれないと僕の貞操に関わってしまう。
「今はそんな汗臭い青春はお呼びじゃないんだ」
「じゃあ、道連れだね」
にっこりと微笑む僕と対照して隆平はさらに嫌そうな顔。
「……それはなしだろ」
その言葉の後には誰も何も言わなく、重い沈黙が僕らを支配した。
――――するとそれは不意に、突然に、いきなり、僕を呼ぶ声がした。
『やぁまざぁきくぅぅぅん?』
地獄の閻魔様でもこんなに恐ろしい声は出せないだろう。
それは野太く、艶っぽく、そしてどこまでも僕に身震いをさせる。
緊張のせいか体が固まってしまって動けない僕たちに対し、空き教室で息を潜めていた彼らは続々と僕たちの前に集結していった。
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