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隅々まで手入れをされた庭木。都内にありながらそこは、まるで江戸の時代にタイムスリップしてしまったような、古い作りの建物がたたずんでいる。
『光大寺』とかかれた立派な門には、この寺の住職と、女性の姿があった。
「本当に会わずに帰られるのですか?」
住職が優しく問いかけると、女性はゆっくりとうなずく。
「はい…。会っても、何て言葉をかけたら良いのか…。」
女性は長い髪を束ね、薄いクリーム色のスーツに、焦げ茶色の地味なカバンを肩から下げていた。
上品で清楚な様子だが、表情はどことなく寂しげで、悲しげな目もとだった。
「神代さん…あの子をどうぞ、宜しくお願いいたします。」
丁寧に頭を下げる女性。
「お母さまのお気持ち、斗魔様にはきっとよく伝わっていると思います。…私には美弥様や斗魔様のような力はありませんが、この寺の者たちと、精一杯お守り致します。それが私の使命でもありますから…。」
住職がそう言うと、女性は涙を浮かべ何度も頭を下げてから、門を後にした。
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