一章

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ひとりの少女が、ドレッサーの鏡へ向かって何か呪文のような言葉を唱えている。 「ここなら平気 ……ここなら大丈夫。ここなら昔のわたしを知っている人はいない……」 そう自分へ思い込ませながら、鏡を食い入るように見つめていた。 少女は思わず、鏡に映る自分の姿が可笑しくなった。 今時こんな風な格好をしている女子高校生はいない、と彼女は思った。 黒髪を二つに分けて三つ編みに結い上げて肩を過ぎたところにおろしている。 最後に、黒縁の度の入っていないメガネをかける。 これが、彼女の毎朝の儀式になっている。 そうすれば、誰も自分のこと等わかる人はいないと・・・ 彼女、月丘百合子はそう思い、信じている。 百合子は今、高校二年生だった。
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