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ケーラーたちが走ってくるのは早かった。兵士たちはケーラーの巨大さに押されてうろたえている。その隙に退路ができた。
「ケーラーっ!」
ケーラーに飛び乗った。
「わかりました。あなたを失うのは手痛いですが、あなたのせいで彼女に逃げられたなら店がなくなろうと命がなくなろうと文句は言えないでしょう?」
「ぐっ…ぁっ!」
そんな声が聞こえて振り返ればグレンさんの背中には嫌みなほど長い足が置かれ、首に漆黒の刃があてがわれていた。
「グレンさんっ!!」
「逃、げろ。逃げろ、マリアっ」
「黙りましょうか」
「ぐっ…」
手をのばして叫ぶ彼の懐に綺麗な足がはいる。狂ったように娘の名前を呼ぶ恩人を置いていける訳がなかった。
「逃げ、られるわけないでしょうが!」
ケーラーから飛び降りてグレンさんの元へ戻る。
「マリアっ!!だめだっ。マリアっ」
グレンさんの頭に冷水を浴びせる。
「グレンさん、私はマリアじゃなくてシンリです」
「シン、リ?」
ぼんやりとした表情でこちらを見る彼に汗拭きように持ってきたタオルを渡す。
「落ち着きましたか?風邪引きますよ」
「なんで、」
「私の命は一度 失われました。今は死んだ身、面倒事はごめんだったんですけど、できる限り人生を楽しむことにしますよ。でも、あなたの人生を奪って私だけが楽しむことはありませんから」
「それがどういう事かわかってんのか!?」
「面倒なのはわかってます。でも、楽しむことは心がけでいつでもできます。大丈夫、どういう事情なのかはわかりませんが。私は、………死にませんから。約束です!」
安心するように にっこりと微笑めば彼も困ったように眉を下げてから口の端を上げた。
「勝手なこと言いやがって…。飯代は出世払いだからなっ。」
死なないというのには妙な自信があった。約束を破ることはしない。
「わかりました。絶対に分割払いに行きますからね」
「お別れは終わりましたか?」
「はい、アルケイン将軍」
「では、行きましょうか」
私は面倒なことになったと思いながらも諦めて楽しむしかないと将軍の後を追った。
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