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「いいか、広いからな迷うなよ」
「大丈夫ですよ。土地勘はないですけど方向音痴じゃありませんから」
「慣れるまで迷う気満々じゃねーか…」
呆れたように言う彼だが、仕方がない。こんな広い城の中を迷うなというのは無理な話だ。
「大丈夫です。迷ったらホイッスルを吹きますから」
「お前の犬、賢いもんな」
「はい」
「お前は馬鹿なのか頭が良いのかたまにわかんねーけどな」
「じゃあ両方でいいじゃないですか」
ふふふと笑いながら会話を続ける。余談なのだが、ロッドに変化したミュージックプレイヤーとヘッドホンは元に戻らなくなってしまった。なにげにお気に入りだったのにショックだ。そんなわけで、今は長さを縮めて首から下げている。
「路地裏で寝たり、言うことが難しかったり、やっぱり馬鹿だな。それと、あの対応も馬鹿だろう。逃げれば良かったのに」
「私だけ楽しむことはできませんから」
本当に、幸せも私だけでは感じられないのだから。
「ここだな。俺はこの後に出撃だから」
「行ってらっしゃい。分割払いの権、忘れないで下さいね」
「お前こそ忘れるなよ」
この挨拶が最後かもしれない。店にいた頃にはそんな事は思わなかったのに。だからせめて分割払いの約束で…。
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