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「入りなさい」
ノックの数秒後に声がかかる。
「失礼します」
「君は…」
「昨日は失礼いたしました。改めまして今日からアルケイン様の配下となったシンリです」
「ああ、よろしくね」
腰を六十度に曲げる。人に対する最敬礼だ。
「顔を上げてくれ。君は、」
将軍は暫くしてから考えるように口を開いた。
「君は、私は死にませんから とグレンに言ったね。なぜ?君も人間ならいつかは死ぬんだよ。できない約束はするものじゃない」
私が人間かどうかは神様候補なんてふざけた肩書きを持ってる時点で怪しいものだ。でも自信はないのに確信はあると、悲しそうに語るアルケイン将軍に誰がそんな事を言えようか。
「私は、死にません。置いてきぼりは、置いて行かれた人たちは、寂しいでしょうから。もう、誰かに寂しい思いをさせるわけにはいきません。私は誰かを悲しませることはしたくありません。本当なら戦って人を殺すなんてことはしたくありません。でも、たくさんの人の悲しみも、お世話になった大切な人の悲しみも天秤には掛けられません。誰かの悲しみを誰かの喜びに変えることができるなら、誰かの怒りを、憎しみを、誰かの幸せに変えることができるなら。私はその道を選びます」
私がトラックに引かれたときに、一度死んだ時に、あの子たちは悲しんでくれただろうか?悲しんで、悲しみを分かち合って、仲直りできただろうか?
「でも、君もいつかは僕を置いていくよ」
少し寂しげな将軍に同情をしてしまったが、迷惑だろうか?
「私は、簡単には死にません。それは昨日、決めました」
「だったら、強くなってくれ。すぐには私を置いていかないのなら、昨日みたいに誰かを傷つけることを誰かを犠牲にすることを誰かを殺すことを誰かを悲しませることを誰かに憎まれることを躊躇うな。……君には少し難しいかもしれないけどね」
アルケイン将軍はいつの間にか取り出していたワインを一口の飲むと溜め息を吐いた。
「努力します」
「そうか、今日も新入りが沢山入って 自軍の兵士が沢山死ぬだろう。だが、今日はいつもより美味しいワインを飲めそうだ」
寂しそうな様子から穏やかに微笑んだアルケイン将軍。それを見たら、なんだか彼に対する恐怖心はどこかへ飛んでいってしまった。
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