2 平等の定義

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ヤムル平原では新兵たちが活躍できるときをいまかいまかと待ち構えている。 「大丈夫」 合図すると彼は巨大化する。身体能力が低い私にとって、彼は大切な移動手段なのだ。強力な呪文を詠唱してる際には敵の的になりやすい。ケーラーには詠唱中に動き回ってもらうことにした。あとの二匹は支援攻撃だ。本当にこの合図を使用する日が来るとは思わなかった。なにしろ、都心が戦場になったことを推定した戦闘陣だから。 「さてと、」 ケーラーによじ登ると周りを見渡す。こちらの陣地では魔術師が詠唱している。しかし、敵兵が前衛をすり抜けて来るのは時間の問題な気がした。新兵だろうとそうでなかろうと、長生きするのはごくわずかなのだから。 暫くすると雄叫びと共に敵軍が攻めてきた。やっぱりか。魔導師たちは間合いが無ければ詠唱の時間が無い。魔導力が高ければ簡単な呪文で間に合うのだが。 「我を害する者を駆逐せよ、防御陣」 ロッドに力を込めて詠唱すれば防御膜が出来た。中に入り込んだ敵兵たちが声にならない声をあげて爆発する。血が飛び散った。気持ち悪い。臭い。だけど、吐くことはなかった。そんな事したらケーラーが可哀想だし詠唱ができない。ただ、私が殺したという言葉が頭の中で反響する中を訳も分からず必死に詠唱し続けた。 魔導師は考えてみればチート性能が高いかもしれない。だって補助魔法使えば身体能力上がるし。なんて考える中で慣れてきた私は作業員のように人を殺す自分が嫌になった。でも、幸せに変換できる不幸ならと自分を説得した。相手側の幸せなど知ったことではない。私は今はネクロスの兵士だから。 これが平等かどうかなんて自分ではわからない。ただ、可哀想だと思った。ここにいる自分以外が可哀想に思えた。平等なんて考える暇などない。 ここは戦場なのだから。 そもそも、平等などに私は興味がない。自分の人生をやり直すなら、ただ自分の思うように動くしかないから。
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